M.SUZUKI氏より
【 アメリカ訴訟社会の問題点 】
( 93年訴訟について )

( VOL.62 / Mar 1994 )

 突然の和解表明となった今回の件に関して、Fanの間でもさまざまな捉え方が広がっていますが、まずその大前提として知っておかなくてはならない、アメリカの訴訟社会の背景というものがあります。
 今回、法律の専門家でもあり、アメリカ訴訟社会の仕組みについても詳しい方からコメントを戴くことが出来ましたので、ここに紹介させて戴きます。


 マイケルファンの皆様、はじめまして。
 私は、若手法律家の研究会(弁護士,学者等)でアメリカの訴訟社会の問題として「マイケル・ジャクソンにかかった疑惑」を担当している者です。疑惑経過等の情報を提供していただくことから、このファンクラブの存在を知りました。そして原稿を依頼されましたので私なりにまとめてみました。

 「和解成立」ということでマイケルが有罪の烙印を押された事になると心配されたのではないでしょうか。日米のマスコミは芸能ニュースとしてのみ興味本位な取上げ方していましたので誤解をまねく事も多かったのではないかと思います。ワイドショー等でも評論家,中には弁護士までが(アメリカの訴訟の事実に無知な人々)知ったかぶりをしてコメントをしていたのにはあきれかえりました。
 そこで、その誤解が少しでも解けるようにアメリカの訴訟社会における「マイケル・ジャクソンにかかった疑惑」の問題点、とくに和解成立となった経過を私が得た資料等で述べてみたいと思います。
 尚、この資料はアメリカの法律家関係からのものも含まれています。


 まず、「和解の成立」という事は有罪であるからという事ではありません。
 “日本に比べるとアメリカでは和解が少ない”と言う人がいますが、それは訴訟の仕組みが異なっているからであり実際上はいわゆる「和解の成立」は多いのです。何でも訴訟にするアメリカで「和解」が少なかったら裁判所がいくつあっても足りないでしょう。

 次に、“マイケルが無実であるならば最後まで戦えば良いはずだ”という意見もあるかと思います。
 確かにその考え方もその通りです。しかし、アメリカの訴訟社会の泥沼状態を知れば「和解」もうなずけるのではないでしょうか。(詳しくはあとで記すとして)
 私もアメリカのロースクール(法律学校)に留学したことがありますが、“お金のため、有名になるためなら何でもする”という場面に出くわし驚いた事が何度もあります。マイケル・ジャクソンという大スターともなれば内容の真意を問わず大金が飛び交うのです。それに群がる人が数多くいたことからこんな大スキャンダルになったという事です。

 “そもそもマスコミ等が騒がなければ民事裁判となっても刑事裁判に発展することはなかったのでは”とも言われているのです。
 アメリカの刑事裁判は日本の刑事裁判と大きく異なります。
 日本では起訴され裁判となった場合は、ほぼ有罪です。それだけ検察は責任が重いのです。
 それに対してアメリカは“要求があれば裁判が開かれ、その後に起訴するか否か”を決めるのです。
 あれだけマスコミ等が騒ぎたてればマイケルが有罪か無罪かとは無関係に裁判を開かざるを得ない状態になったのです。
 “すぐに刑務所”なんてとんでもない話です。

 又、刑事の専門家も現在の状態では有罪とできる証拠がなかったと言っています。
 まず児童に対する性的犯罪は病的なものであり被害者は複数、それもマイケル・ジャクソンのように周囲に子供を連れていた場合には相当数でなければおかしいのです。
 “お金で口を封じた”という話もありますが実際に被害に遭った場合にはそんな事では片づきません。

 次に検察側の証人がほとんど金目当てと思われる人であった事、また子供の周囲の人間が証人として立っていないのも不思議だそうです。(こういったケースでは被害者となった子供の周りにいる人達が証人として何人か出なくてはおかしいそうです。)
 ちなみに少年の近所にいた住人のほとんどが“マイケルは少年の父親にはめられた”と言っており、マイケルの為に証人に立つ予定の人もいたそうですが…。

 ここまで述べても、なぜマイケル・ジャクソンが高額な和解をしたのか納得できない人もいるでしょう。
 しかしマイケル・ジャクソンはこのまま泥沼の訴訟を続けて無罪を勝ち取っても満足できないほどに、すでに心に負った傷が大きかったのではないでしょうか。
 “信じていた子供に裏切られたショック”は大きかったと思います。
 マイケル自身、“不幸な子供を喜ばせるためなら何でもしてあげる、いくらでもお金をかける”という他人から見たら異常とも思われる行為(誤解されても仕方ない行動)があった事は確かですし、それに付け込まれるとは夢にも思っていなかったのでしょうが、“マイケル・ジャクソンでなければ許される事でも、マイケル・ジャクソンという大スターでは許されなかった”という事でもあります。

 この訴訟で一番得をしたのは少年の弁護士でしょう。多額の報酬を得、有名人になれたのですから。
 ちなみに最初に付いた女性弁護士は幼児・児童に対する犯罪の専門家であり、お金目当ての訴訟をする人ではないそうです。“子供の親もマイケルから多額の金銭を取れるし、証人に立った人々も大金を手に入れられた、警察も証拠探しを名目にやりたい放題、捜査手続きも異常だった”そうです。

 結局最大の被害者は、事実を知っているマイケルと少年と言われています。
 少年自身がこんな事件を起こせるはずはなく父親を含む大人の仕業でしょう。
 マイケルもこれ以上少年との争いを望まなかったのも、それを理解していたからではないでしょうか。少なくともこの訴訟で少年の未来もなくなってしまったのですから。

 以上が私が現在まで研究会の報告のため入手した情報の一部です。

 この件を調べてきた限り、ここで和解をしたのは妥当だったと思います。
 マイケル・ジャクソン自身も「無実の声明」を通して“自分を信じてくれる人の存在を認識したからこそ悪評が立つのを覚悟の上で和解に応じたのだ”と思います。
 マイケルの弁護士もそう判断したのでしょう。ファンの皆さんはどう考えられますか?
 私自身は疑惑の発覚当初は「まさか…。」と思いつつ「もしや…。」とも思いました。「まさかこの人が…。」ということがありますから。
 しかし、福岡ドームのコンサートを運よく観ることができマイケル・ジャクソン本人を見て「やっぱり、あの疑惑はハメラレタんだなぁ…」と思いマイケルは無実だと判断しました。

 これからマイケルは、このスキャンダルでまみれたイメージ回復の為に、そして無実を信じてもらえるように頑張っていくのではないでしょうか。この件で強くなったと思います。
 あまりに純粋であったが為に負ってしまった傷を癒すのは容易なことではないでしょう。
 心の傷を癒すのに最も有効なのはマイケル・ジャクソンを信じる人々の存在をマイケル自身が確信する事ではないでしょうか。ファンに見守られている限り、これからも浴びるであろう中傷などを乗り越え再び素晴らしいステージを実現してくれると思うのですが…
 皆さんはいかが思われますか?


【 様々な観点からの不審な部分 】
 マイケル・ジャクソンにかけられた疑惑は単なる芸能ネタではなくアメリカ社会の病的部分,プライバシー保護の難しさ、金目当ての行動等、多方面に問題を投げかけているだけに「和解」によって真相が明らかにされなかった事について非難と同情が真っ二つに分かれたのだと思う。
 マイケル・ジャクソンの善悪を判断する上でアメリカ司法制度の異常な取扱を見逃してはいけない。
 マイケルが疑惑を持たれる点・非難される点は、ゴシップ紙・その他の記事から日本でも報道されているので、ここではアメリカ国内の過半数の意見でもある「無実でも和解せざるを得なくなったとされる異常性」をあげてみる。
 日本では新聞記者もコメンテーターも無知をさらけ出している。

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●アメリカの弁護士事情●(高額報酬を得るためなら手段を問わない点がある)
  • 成功報酬として和解額の3割以上をとってしまう。アメリカで和解金が高額化しているのもこういった事が含まれる。
  • 少年側の当初の女性弁護士は、幼児・児童虐待犯罪の専門家で金目当ての仕事はしないと評判の人物。その人が「この弁護はできない」と降りてしまった。和解のときの少年側弁護士は有名人を相手とする事件が多い人であった。
  • 真実発見よりも弁護士のための訴訟が社会問題となっている。

●アメリカ警察への不信●(マイケル・ジャクソンのショックは大きかったと言われている)
  • FBIを除き警察に対する評価はきわめて低い。
  • 捜査が異常であった。
    1. マイケルの両親宅の捜査は祖父の葬儀列席の留守宅を狙ったものであり、家の中はメチャメチャにされ、事件とは全く関係のない物までが押収された。
    2. 全裸写真を強要するなど興味本位とも思われる捜査が続いた。
    3. 13歳の少年の証言だけで刑事事件として起訴しようとした。
    4. 証拠がないため関係者に対する過剰とも思われる取り調べがされていた。

●裁判所への不信●
  • 民事訴訟は通常1年以上待たされて開始されるのに本件では数ケ月で始まった。異例の取扱と言われている。
  • 通常、民事事件の証言が刑事事件に不利にならないよう配慮されるが、この件では並行する事態となっていた。
  • 検察と裁判所の司法取引は日常茶飯事と言われている。(スケート選手のハーディングの夫の証言でもわかるように「証言する代わりに刑を軽減してほしい」というようなことである)

●金目当ての証人の続出●
  • 金銭の支給を条件に法廷の証人として出廷する人が多い。日本では2万円もらったという事で証人としての信用性が否定されているが、アメリカでは莫大な金額が飛び交う。
  • 疑惑発覚当初から金銭トラブルのあった人々によりマイケルに不利な証言が続出した。

●マスコミの過剰報道●
  • 一般大衆ウケするスキャンダルであったことは間違いない。
  • 少年支持派とマイケル支持派の暴露合戦。
  • 警察資料のマスコミへの流出。
  • この疑惑によるマスコミ収益はアメリカ国内のみだけで約20億ドルとも50億ドルとも言われている。
  • ツアー中止後、国外の病院で療養したが行方不明騒ぎとなりマスコミの異常報道でアメリカ国内でのマイケルの立場が急に悪くなってしまった。

●検察への不信●
  • アメリカには日本のような検察制度はない。日本では起訴・不起訴は検察という専門家が決定し、起訴された場合はほぼ有罪。それだけ検察の責任が重いのである。
    (ちなみに日本ではマイケルの場合のように確実な証拠がなければ起訴すらできないであろう)
    アメリカでは起訴・不起訴は陪審員が決める。刑事事件としての捜査が始まれば陪審が開かれ、検察側だけが証拠を並べ起訴・不起訴の決定を陪審に図る。
    被告側の反証は一切許されないので、実際は検察の意図で左右されてしまうのである。起訴されても無罪が多いのはそのためである。
    つまり、検察には責任がないので日本とは全く異なる。

●検察官の有名人志向●
  • 制度上の違いから検察官も有名人になりたがる。検事が政治家としてよく立候補することからも日本の感覚とは異なる。
    このマイケルの件で起訴ができれば(無罪であっても)法廷の様子がTVに流される事から有名人になれるチャンスだった。強引な捜査を強行した背景にはこういった要素を見逃がせない。
    少年の和解によって一番悔しがったのは検察と言われている。真実が明らかにならなかったというだけの理由ではない事は言うまでもない。

●アメリカ法律専門家の意見●
  • そもそも13歳の少年の証言だけで刑事事件として大騒ぎするのは疑問だ。この種の犯罪は被害者が複数出ない限り、刑事事件として扱うためには慎重でなければならないのだ。
    もし疑惑が事実とすればこの和解は当然許されるべきでないが、この事件の特殊性を考えると、大スターであるが故の悲劇とも言えるであろう。
    マイケル側が少年の父親に対して恐喝事件の訴訟を起こす直前に少年側が和解を承諾したというのも見逃がしてはいけない。 この和解は“マスコミと警察、検察等の協力を得て成功した恐喝事件の成功例”となる可能性も高い事を忘れてはいけない。マイケルが不起訴、無実となった後十分注目を続ける価値のある事件だ。数年後には違った形でこの事件の真相は明らかになるだろう。
    和解によって真実が法廷で明らかにならなかったことは残念だが、この事件がアメリカ司法制度の問題点を考える良い機会となったことは確かである。


このページを組んだのは、決しておのおのの考えを誘導するためのものではなく、
こういった背景をもとに 改めて今回の和解を考え、それぞれの観点から捉え、
考えてみてほしいという事です。

マイケルへの思いの新たな発見となるコトを願っています。

UPDATE - '06.10.14