M.SUZUKI氏より
【 マスメディアへの 『アクセス権』 】
― マイケルのタブロイド誌への自発的登場の理由 ―
( VOL.70 / Dec 1994 )

VOL.62・69に続き M.SUZUKI氏から、法律の専門家としての立場からの見解・意見を寄せて戴きました。


 皆様こんにちは。
 「マイケルは以前にインタビュー等でタブロイド誌を非難していたにも関わらず、一転して事件の釈明等を同じタブロイド誌でするのはおかしいのではないか」 という疑問を持っている方も多いと聞きました。
 確かに、「あんな物は買うな」 と叫んでいた人が その誌上に自ら登場するのは矛盾ではないかと思われるのも仕方がない事だと思います。

 しかし、(少々専門的になりますが) マイケルは、自分について誤って書かれた記事に対して、いわゆる 『アクセス権』 を行使したに過ぎず、正当な行為として評価されるものではないでしょうか。
 『アクセス権』 は、憲法上の権利とまでは言えませんが、新しい権利の1つとして “マスコミと人権尊重” という大きな課題の中で注目されているものです。
 そこで、少々難しくなるかもしれませんが、皆さんに 『アクセス権』 なるものについて述べたいと思います。

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  1. 『アクセス権』 とは、(表現の自由の観点から)一般国民が情報の送り手であるマスメディアに対して自己の意見の発表の場を提供することを要求する権利であり、具体的には反論記事の掲載,誌面・番組への参加を要求する事です。
    マスコミが巨大化し情報が集中している今日では、マスコミによる人権侵害が社会問題となっています。こうした中で大きな権力となっていくマスコミによる人権侵害を受けた人々の救済・公平の確保のために登場してきたのが 『アクセス権』 です。

  2. マイケルが一連の無責任な事件報道によってひどく名誉を傷つけられた事は、皆さんご存知ですよね。
    その抗議の1つとして、「無責任なタブロイド誌を買うな」 と呼びかけるのも当然の手段でしょう。(日本でも時々不買運動を耳にすることがあります)
    しかし、マイケルが大衆誌を相手にそんな事を呼びかけても、傷つけられた名誉回復には何の役にも立たなかったでしょう。
    こうした場合に、事実と異なる記事を載せた新聞・雑誌そのものに反論記事を載せたり誌面に登場して名誉回復の機会を求めるのが 『アクセス権』 です。
    誤った内容の記事を読んだ読者に真実を訴えるためには、同じ種類の新聞・雑誌に掲載しなければ意味がないわけです。

  3. かつてのようなマイケルのスキャンダルは芸能ネタに過ぎなかったのですから、全く無視しても構わなかったでしょう。
    また、程度のひどいものについては (英の大衆誌 『SUN』のように)名誉毀損で損害賠償請求訴訟を裁判所に起こせば足りたでしょう。
    しかし今回のような、警察・検察・裁判所が関わった事件に関する事項については、傷ついたイメージと名誉の回復のために 『アクセス権』 を行使して、自らがタブロイド誌に登場し、読者に真実を伝える必要があったのだと思います。
    事件に関しての釈明や結婚写真の掲載も、無責任な記事でイメージを傷つけたタブロイド誌に対し、名誉回復のために請求した正当な権利行使ではないでしょうか。
    マスコミ側も、公平の観点からマイケルの主張を受け入れる責任があったと言えるし(却って良かったのでは…?)、マイケルの請求を受け入れたのでしょう。
    記事の内容が、他の記事と異なりゴシップ的ではなかったのも、その為なのです。
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 皆さんも、今回の事件を通じてタブロイド誌を買ったり読んだりしませんでしたか? 私も研究に必要な情報収集のための利用しました。マイケルの事件に関する情報をいちばん手っ取り早く入手できたからです。
 マイケルが 「タブロイド誌を買わないで!」 と訴えたからといって、実際にマイケルの言葉に従って全く買わなかったり全く読まなかったりした人は少数派ではないでしょうか。
 マイケルとしても事件終結後、真実を語り ファンを含めた大勢の人の誤解を解くための最も効果的な方法として、タブロイド誌に 『アクセス権』 を行使することを考えたのでは… と思います。

 この方法については皆さんの中でも賛否あると思いますし、私としてもマイケルにとって最良の手段であったかは判りません。ただ、数少ないマイケルの真実の声が、タブロイド誌であれ 写真や記事を通じて伝わってきた事は確かでしょう。
 いずれにしても、マイケルの名誉回復は今後の音楽活動等にかかっていると思うのですが…
 皆さんはどう思われますか。

※現在('94年11月当時)公開されている映画 『依頼人』 を観ると、アメリカの検察官が
 どんなものなのかが少し理解できるのでは…。

UPDATE - '07.06.12